鷺沢文香『黄昏の丘にて』第87期棋聖戦五番勝負第5局 羽生善治棋聖-永瀬拓矢六段

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 出不精の私でも、一日における時間帯は日時計で何となく分かるものだ。日が登ってきたからそろそろ正午近いなあとか、空が赤くなってきたから夕暮れ時だなとか、おおよそは判断出来る。
 それが人の一生となると、どうだろう? 今が人生の何時頃なのか、誰に分かるというのか。
 私がアイドルを初めて、何年と経っているわけではない。
 おそらくまだ正午にもなっていないと思う。まだまだこれから、なのだろう。
 だけど、私もいつか最後のステージに立つときはきっと来る。それがいつ、どんな形で訪れるのかは分からないけれど、必ずその時は来るのだから。
 どんなことにだって、どんな人にだって始まりがあれば終わりがある。
 先日、茜さんと買った雑誌に掲載されていた先崎九段のコラムが、のどに刺さった小骨のように、ずっと心に引っかかっている。

『羽生ほど偉大な棋士はいない。彼は1人で世界を変えて見せたのだ。彼はシェイクスピアであり、ニュートンだった。そしてモハメド・アリだった』

 どんなに偉大な太陽でも、いつかは落日の時を迎える。
 羽生善治もまた、例外ではない。
 でも、彼の盤上での輝きはあまりにも眩しいから、時々、それを忘れそうになる。

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