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櫻井桃華と谷川浩司『光速の寄せ』選集

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お待たせしましたわね!櫻井桃華の登場ですわ!
本日はこのわたくしが、グリモ……グリモワ……えーっと、蘭子さんのブログに記事を書かせていただきますわ!

……とは言ってもですね。わたくしはそこらの棋譜じゃ満足できませんの。
確かに、これまで皆様が書いてらした熱戦の数々……実に素晴らしい将棋でございました。
ですけど、此度はせっかくこのわたくしが筆を執るのですから、もっとエレガンスで、気品に満ちた、美しい将棋について語りたいですの!

そういうわけで、そういう将棋がどこかにないか事務所の皆様に相談しましたの。
すると、菜々さんが自信を持ってオススメしたい棋譜があると仰りましたの!

 

それが……これですわ!

 

と、言っても文字で記事を読んでいては分かりませんわね。
おのおのイメージで補完して下さいまし。ブログは心で読むものですの。
具体的には茶封筒にA4サイズの紙が何枚か入っているようですのね。
まあ、そんな感じですわ!
実はわたくしもまだ中身を確認していませんの。
あの菜々さんがわたくしにオススメする高貴な棋譜ですもの。
新鮮な気持ちで、ファンの皆様と一緒に浸りたいのですわ!

おっと、わたくしとしましたことが、前置きが長くなってしまいました。
それでは早速一枚目の紙を見てみましょう!えいっ!


開始日時:1993/06/19
棋戦:棋聖戦
戦型:矢倉
先手:羽生善治
後手:谷川浩司 

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なるほど?局面図ですのね。
先手は……羽生善治先生ですわ!
説明するまでもありませんわね!棋界を代表するスーパースター!
今なお四冠を保持し、現在は王将戦に挑戦中ですわね。
わたくしもアイドルとして、彼のスター性は見習うべきところがありますわ!
そして後手は……谷川浩司先生ですの。
もちろん知ってますわよ!
将棋連盟会長ですの!
会長という重責を果たしながら、棋士としても順位戦B級1組に在籍している凄い方ですわ!
それに終盤が物凄く強くて、『光速の寄せ』と恐れられていたそうですの!
かつての羽生先生との激闘、阪神大震災から立ち上がっての七冠阻止……将棋の歴史に燦然と輝いていますわ……!
うーん……。
実はわたくし、まだ12歳でして。
これから立派なオトナのレディーになっていくのは間違いないのですけど、谷川先生の光速の棋譜については、恥ずかしながらよく知らないですの。

この局面、次は後手の手番ということは、谷川先生の次の一手を考えればいいですのね?
ではもう一度。

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……王手銀取りですわね。
とりあえず見えるのは△4七歩ですの。
ですけど、それは▲7八飛で銀を抜かれて駄目ですわね。
以下△2九飛成▲4四歩△5二玉と……要の銀を抜かれては後手が勝てる道理がありませんわ。
合い駒ではなく玉を逃げても同じですわね。
えーと。
これ……どうするんですの?

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△4七角!

えっ?
か、角合い?
角の中合いですの?
失礼、ちょっと考えますの!
△4七角に▲7八飛としますわ!
△同飛成▲同玉に……あっ、△4七角の効果で△6九銀の王手が打てますわね!
▲7七玉△7八飛▲8六玉△7五金▲同歩△同飛成……。
うそ……。
先手玉が詰んでしまいましたの……。
ですけど▲同飛は△5一玉▲5三香△6二玉……。
駄目ですわ!
角二枚では広い後手玉を捕まえられませんわ!
と、いうことは△4七角で後手が勝ちなんですの……?
角の限定中合なんて、詰将棋でしか見たことがありませんわ!
それが実戦の、しかもタイトル戦で出てくるなんて……。
これが『光速の寄せ』ですの?

 

つ、次を見てみますわ!

開始日時:1992/12/24
棋戦:竜王戦
先手:羽生善治
後手:谷川浩司 

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この棋譜も……羽生先生との将棋ですの!
この二人は現役最多の165局を戦っている仲ですわ。
タイトル戦で何度も顔を合わせたからこそ、これほど対局数が多いんですのね!
でも12歳のわたくしはこの頃まだ生まれてもいませんの……。
わたくしも菜々さんみたいに二人の番勝負を直接見たかったですわ。
さて、局面ですの!
羽生先生が▲4五歩と打ったところみたいですわね。
△同銀は▲4四歩△同金▲7六歩△6五飛に▲7一馬が気になりますわ。
▲7六歩のところで▲2五歩と銀を取る手もありそうですの。
と、いうことは△同金に代えて△3三金ですけど、それは▲4四歩の拠点が残って嫌ですわね。
それなら▲4五歩には△3三銀でしょうか?
でもそれも▲2五歩と銀を取るくらいで、▲4四桂の狙いが残って先手が良いですわ。
…………?
この局面は先手優勢ではありませんこと?

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△6九馬!

ふえ……?
な、な、な……なんですのこれは!?
▲4四歩打たれてるんですのよ!
放置したら守り駒がパクパク食べられてしまいますわ!
え、えええ?
こ、これでどうなるんですの……?

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△6九馬 ▲4四歩 △5八銀


守り駒をパクパクされるのを無視して攻め合ってますの!


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▲同 飛 △同 馬▲4三歩成 △6七馬

 

この局面……△6七馬は詰めろでしょうけど、ここで▲3二とから後手玉詰みませんの?

▲3二と△同 玉▲4一銀△3三玉▲2二銀△4四玉▲4八香△4五歩……。

うう……。詰みませんの。


▲7九金打 △7七飛成 ▲同 桂 △8八飛▲同金上 △同歩成 ▲同 玉 △8七金まで88手で後手の勝ち

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実戦は▲7九金打としましたけど、△7七飛から光速の寄せ……ですの!

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ここの飛車打ちも詰将棋的でエレガントですわね!
金でも詰むでしょうけど、あえて飛車を選んだところに、谷川先生の美学が感じられますわ!
菜々さんのメモには▲4三歩成が敗着で、▲7六銀ならまだ難しかったとありますわ。
でもこれはあの羽生先生を誤らせるほどの迫力が、△6九馬にはあったということですわね!
常識外でありながら高貴さすら感じさせる収束……素晴らしい寄せでしたわ。

 

菜々さんから受け取った図面は次で最後ですわ。
うう……残念ですの。
わたくしはもっとたくさん谷川先生の光速流がみたいのですけど……。
仕方がありません。それでは見てみましょう!えいっ!

こ、これは……この棋譜は……。

1996/10/29
棋戦:竜王戦
先手:羽生善治
後手:谷川浩司

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この将棋はわたくしも知っていますわ!
将棋史の中でも指折りの一局と言っていいかもしれませんわね!
この将棋が行われた年、羽生先生は七冠王に輝きましたわ。
二月十四日、谷川先生が保持していた最後のタイトル。王将を奪って。
それからおよそ八ヶ月。
三浦先生に棋聖を奪われたものの、まだ六冠を保持していましたの。
全てを失った谷川先生が、再起を賭けて王者に挑む。
当時の空気は想像するしかありませんけど、きっと凄まじい決意の元、谷川先生は羽生さんの前に立ったのだと思いますわ!
この局面の次の一手。
将棋史に残る絶妙手ですの!

 

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△7七桂!

こんなに駒が利いている場所に桂をタダ捨て……!
まさに『鬼手』ですの!
菜々さんのメモに、この手を指された瞬間の羽生先生の様子を描写した観戦記の抜粋が書いてありましたわ。

『羽生の顔色が一変していた、大きく開いた目。半開きの口。深い眉間のシワ。夜道で得体の知れないものに出くわしたときのような、恐怖と驚愕の顔がそこにあった』

い、今読んでも臨場感が伝わるような一文ですの……。
この桂、ただで取れるように見えて、▲同桂あるいは▲同金と取ってしまうと後に△7六歩とした手がさらに駒当たりなって後手のスピードが加速してしまいますの……!
よってこの桂は取れませんわ。
しかもこの桂が先手の飛車に当たっているので▲6二馬も出来ませんの。
だから先手は▲5九飛と角を取るしかありませんけど……。

 

▲5九飛△6三飛▲5四角△6八角

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この△6八角が、さらに絶妙手ですわ!
飛車を取り合うのは固さが違うので先手の負けですの。

▲5八飛△8九桂成▲同 玉△7六歩▲6八飛△同飛成▲同 金△7七銀

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△8九桂成と成り捨てて△7六歩!厳しいですわね!
最後の△7七銀が△8八飛からの詰めろですわ!
この時点で既に先手は受けが難しくなってますの!

▲6三飛△8八飛▲7九玉△6八飛成▲同飛成△同銀不成▲同 玉△3八飛▲6七玉△7七金▲6六玉△6八飛成▲7五玉△6三桂

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そして最後は成り捨てて拾った桂を打っての収束……!
こんな奇跡のような手順が盤上に表現できるなんて……。
一応、△7七桂自体は知識としては知っていましたの。
しかし、改めて自分の手で並べてみると、格別の感動がありますのね……!
美しい……素晴らしいですわ!

 

ふう……名残惜しいですけど、これで菜々さんが下さった棋譜はおしまいですの。
谷川先生……『光速流』とはいうものの、それはただ速いだけじゃない……強いだけでもない……まるで芸術家のように、寄せの手順を描いてますの……!
…………。
わたくし、谷川先生のファンになってしまいましたわ!
それに、それにですの!
菜々さんが教えて下さったのはたった三局!
もっとたくさんの名局があるはずですわ!
見たいですの!並べたいですの!
早速菜々さんに『谷川浩司全集』を借りに行きますの!
持ってなかったらどうしましょう?
文香さんの古書店には置いてあるでしょうか?
そうと決まれば善は急げですの!

それに、谷川先生はいまだ現役ですのよ!
若い頃のようには勝ちまくることはなくっても、これからも感動するような名局を生み出してくれるはずですの!
そして……。


来季はきっと、A級に昇級ですわ!

【櫻井桃華】