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神崎蘭子の『盤上のシンデレラ ~神崎蘭子の観戦記~ 第14局』グリモワール

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クックック……我が名は神崎蘭子……!

闇に飲まれよ!!!!

時代が新たな時を刻み始め、はやくも二つの月が過ぎ去っていったわ……。
その間、我は小さな天使や書の女神と共にグリモワールを紡ぎながら、真剣師の仮面を被り死闘を演じていたわ。
我がグリモワールを紐解く者達には、こちらのグリモワールの魔力を確かめてみることね!

 


神崎蘭子さんの将棋グリモワール 第4局《姉弟子紗枝》
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28829544

さて、今宵私が記すのは普段描いているが如き棋士達の戦いの軌跡ではない……!
棋士棋士でも、偶像……アイドルという名の将棋指し……!
そう、彼女たちこそ盤上のシンデレラ!

盤上のシンデレラ ~神崎蘭子の観戦記~ 第14局
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28834222

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さて、ここより先は真結界の向こう……禁断の領域に踏み込むことになるわ。準備はいいかしら? 『瞳』を持たぬ者達はまず、ガラスの靴を探しに行くことね。
(ここから先は動画のネタバレに触れますので、先に動画を視聴することをオススメします!)
さあ、狂乱の宴の始まりよ!


1.創世の刻

棋戦:アイドル王座戦
先手:輿水幸子
後手:本田未央

▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △8五歩▲2四歩△同 歩 ▲同 飛 △3二金 ▲7八金 △8六歩▲同 歩 △同 飛 ▲5八玉 △7六飛 

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 宿命の時を迎え、二人の戦乙女が盤前で向き合っているわ!
一人は輿水幸子……我と同じく中学生でアイドルとなった盤上の策略家……棋戦初参加にしてヴァルハラへと辿り付いたのは見事言うほかないわ!
そしてもう一人は本田未央……アイドル界に新たな時代の訪れを感じさせるニュージェネレーションズと呼ばれる新進気鋭のアイドルの筆頭!
彼女がこの地へと辿り着いたことに、驚くアイドルはもはや誰もいないわ……!
そんな二人の決戦、ラグナロクへ近づくのはどちらになるのかしら?

さて、盤上は創成期から既に火花が散っているわ。
幸子ちゃんは策略家の名に恥じず、積極的に揺さぶりを掛けているわね。
▲7八金を入れずに古より伝わる八つの爆弾を誘い、また星屑の輪舞を奏でることなく▲5八玉と上がったわ。
並の者ならこの策謀は、研究による対決から逃れ未知なる世界に誘うことで、魔力勝負に持ち込むために選択……しかし、幸子ちゃんは違うわ。
見知らぬ霧の中に策略の網を張り巡らしているの……!
勿論、未央さんもそれは百も承知!
幸子ちゃんの誘いに乗らない路を探しているわ!
時によっては何ら思考の翼を羽ばたかせることなく進む創成期において、水面下で激しく争っているのがこれからの激闘を予感させているわね!

 
▲2二角成 △同 銀▲3四飛 △3三銀 ▲8四飛 △8二歩 ▲3八金 △7二金▲7七桂 △5二玉 ▲6八銀 △7四歩 ▲2八銀 △6二銀▲8九飛△7三桂

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▲8四飛がこの形ならではの幸子ちゃんの工夫ね。通常の相星屑の輪舞曲ならば▲5八玉がないから、▲8四飛に△9五角と打たれてしまうわ。

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それがないこその▲8四飛!
幸子ちゃんは祭壇に捧げる術式を細かく用意してはないかったと言っていたけど、普段から深く研究しているのが感じられるわ。


さて、小さく時を刻んでいた創成期を終えると、むしろ二人の時は少しずつ加速し始めた。
双方が折り合わぬままに進んでいた創成期を終え、降り立つべき世界が決まったが理由なのかもしれないわ。
そうなればこの二人なら自然の摂理に従うままに指し手を紡ぐだけでも先へ進むことできるもの。
されど、そういう時にこそ罠は潜むもの……。
幸子ちゃんは何気なく奏でた▲8九飛を後に悔やむことになるわ。
未央さんの△7三桂を見て幸子ちゃんが席を立ち、昼餉の時になったわ。
私が食したのはもちろん禁断の果実……!
おいしかった~


2.不安の種

 

▲2七銀 △2六歩 ▲3六銀 △4四銀▲2四歩 △3五歩 ▲2五銀 △4五角 ▲8七金 △6六飛

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▲3四角 △6四飛 ▲4五角 △同 銀 ▲5五角 △2七歩成▲同 金 △3三桂 ▲6四角 △同 歩 ▲8八金

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昼餉を終えて、幸子ちゃんの時の砂が少しずつ零れ始める……。
確信に満ちた表情が微かに歪み、盤上を見ては小さくため息を吐く。
「△8八飛と引くべきでした」
局後、幸子ちゃんはこう語ったわ。
星屑を拾いし未央さんのチャリオットは幸子さんの動きを封じながら、自らも不安定な存在だった……。
幸子ちゃんはこのチャリオットを捉えるのを狙っていたのだけど、未央さんの紡ぎし盤上に軌跡の前に、それは叶わなかったわ。
その後悔は二つの星図に明らかに映し出されている。
△6六飛の時、未央さんのビショップが8九のチャリオットを狙っているし、△7八角の隙を防ぐため、幸子ちゃんは黄金の騎士を8八に引かざるを得なかったわ。

……これは心の奥を抉るため、あえて未央さんがあえて選んだ魔術かもしれないわ。
もしも幸子ちゃんが△8八飛としていたならば、未央さんもまたそれに対応した魔術を放ったはずだわ。そうなればきっと全く別の世界が形作られていたに相違ない……!
あえて幸子ちゃんの▲8九飛を逆用するような音色を奏でる未央さんは、幸子ちゃんにこう語っているの。
「▲8九飛は疑問じゃなかった?」と。
こんな不安の種を心に植え付けるのが未央さんの魔術で、相手は少しずつ心を削られていくのかもしれないわ。
もっとも、幸子ちゃんの▲2四歩も遠望なる術式が込められていて、決して負けてはいないわ。
このあたりはさすがは魔力に満ちた二人の戦いといったところかしら。


△2五桂▲2三歩成 △同 金 ▲2一飛

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△3四銀▲9一飛成 △6三角▲2八金 △2六歩 ▲1一龍 △2七歩成 ▲2四歩 △3三角▲3一龍 △2四角

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▲6六香 △2八と ▲6四香 △2七角成▲6二香成 △同 金 ▲6六香 △6三歩 ▲4一銀 △6一玉▲7八金 △7二玉 ▲3二銀不成△3三金

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アイドルとは盤上の駒達を操り、時に舞を踊らせ時に妙なる音色を奏でさせるもの……。
されば盤の向こう側にいる何者かによって、その瞳に映る景色を変えることはあってはならないことというのは、一つの真理。
されど、アイドルもまた人間。その束縛から逃れる術はないのかもしれないわ。
真結界の奥に隠れた幸子ちゃんの心は、どのように動いていたのかしら。
▲2三歩成 △同 金 ▲2一飛により幸子ちゃんはかつてから構成されたいた魔術式をついに解放させたわ。
未央さんは結界はチャリオットに弱い……。
戦士達の控え室では既に幸子ちゃんの翼を借りたいという者もいたわ。もっとも逆もしかり、だけれど。
一方で幸子ちゃん自身の心は悲しげな調べを奏でていたようね。
△2四角はどちらの得か分からない
あるいは、ニュージェネレーションズの筆頭である未央さんを真結界の奥で認めすぎていたのかもしれないわね。
対する未央さんは創成期から一貫して、表情を変えることなく指し手を紡ぐ……。
真結界の奥は見えないけれど、この時の戦士達の控え室にある魔鏡から映し出された姿は、澄んだ泉のように静かなものだったわ。

夕餉の時を挟んで△3三金。夕餉の席にてかな子さんがアプリマクなる不思議な聖遺物を土産に戦士達の控え室に現れたわ。
おいしかった!

3.神々の黄昏へ

 ▲7五歩△4九銀▲6九玉 △3八馬 ▲7九玉 △4七馬 ▲9一龍 △8一金▲9三龍 △5八銀成 ▲4八歩

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 △6九成銀 ▲8八玉 △3八馬

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 束の間の休息を終えた幸子ちゃんが選んだのは▲7五歩。
それを見た未央さんが初めて目を伏せ、小さくため息を吐いたわ。
この将棋は未知の世界を手探りで進むもの……これまでも二人は少しずつ時を刻んできたけれど、この時の未央さんは思考は少し意味が違っているわ。
あらゆる道筋を読み切るのではない、必要なのは決断に要する時。
やがて未央さんの手が動き、盤上に△4九銀が放たれた。
大きな魔力を蓄えながらも幸子ちゃんの猛攻を凌いでいた未央さんが、ついに反撃に魔術を唱えたわ。
しかし幸子ちゃんも容易く倒れはしないわ。
▲4八歩は戦士達の休憩所でも絶賛されたレギオンの術式……!
△3八馬を△5八馬では▲7四歩とナイトを攻める手が厳しく未央さんが負けてしまうの。
運命の秤は、まだどちらに傾くか決めかねていたわ。

 

▲4一銀不成△6八成銀 ▲同 金 △7五歩 ▲5一銀 △6一金▲7八玉 △5一金 ▲8五桂 △8三香 ▲7三桂成 △同 玉▲8四歩 △6二玉 ▲8三歩成 △4二金 ▲7二と △5一玉▲8一と △4一玉 ▲8二飛成 △8六桂

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棋道とは思う通りにはいかぬもの。
満を持して反撃に出たはずの未央さんはしかし、幸子ちゃんの防護呪文により再び反撃に晒される……。しかも、今度はより厳しく!
一方の幸子ちゃんも、一度は左に追い詰めたはずの王を今度は右に逃がしてしまう。
互いに秘術を繰り出し、またいくつもの誤算を重ねながら指し手を紡ぐ。
戦士達の休憩所にて見守る私達もまた、熱戦に息を飲んでいたわ!
そしてついに、エルサレムの鐘の音が響き黙示録の時がやってくる!
「ごじゅうびょー」
みりあちゃんの声が響く中、未央さんの手がヴァルハラへと伸び、盤上にナイトが放たれた!

△8六桂!

単騎の桂に歴戦の戦士達も目を疑ったわ。
たった一人で幸子ちゃんの王へ剣を向けたナイトは、しかし王を守護する龍にすぐに倒されてしまう。
しかし、この犠牲によって、未央さんは何よりも貴重な『時』を得たわ!

 

▲同 龍 △7六銀▲6三龍 △1九と ▲2二金 △8七銀打 ▲同 龍 △同銀成▲同 玉 △5二銀 ▲7二龍 △3二金引 ▲同 金 

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幸子ちゃんは戦いの後、▲3二同金を悔いていたわ。
されど、未央さんの王に刃を突きつけ手番を握り続けなければ、反攻呪文をまともに食らってしまう。
あるいは仕方の無いことたったのかもしれないけれど、一度は捕らえんとした王を楽園へと逃がしてしまうのは、秤の傾き以上に幸子ちゃんの心に痛みを与えたのかもしれないわ。

△同 玉▲7七金打△8九飛 ▲8八銀 △2九と ▲7九銀打 △7六桂▲同 金 △同 歩 ▲9八玉 △8七歩 ▲8九玉 △8三香▲8二飛 △8八歩成 ▲同 銀 △9二金

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しかし、思うようにいかなくとも、幸子ちゃんは折れはしない。
二つのチャリオットの威力は決して油断ならないわ。
まだ、激しい戦いが続くことが予想されたその時、未央さんからまたも凄まじい魔術が放たれた!
△9二金……!
再びヴァルハラのパラディンを捨てる秘術……!
▲同飛成は△8八香成▲同 玉△8六銀▲7八金打△9二馬 ▲同 龍 △7七金 ▲同金右 △同歩成 ▲同 金△7九銀 ▲同 玉 △7七銀成で幸子ちゃんの王が囚われてしまうわ!


▲8七歩 △8二金▲同 と △8七香成 ▲同 銀 △4九飛 ▲7九香 △8六歩▲同 銀 △8七金 ▲8八香 △5九銀 ▲6九金 △4八銀不成▲6八金打 △8六金 ▲同 香 △5七銀不成▲7六龍 △3六歩▲7八金打 △7五歩 ▲同 龍 △8七銀 ▲8八歩 △7八銀成
▲同 玉 △6八銀成 ▲同 金 △7四金まで178手。後手本田未央の勝ち。

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黄金の騎士を倒せない幸子ちゃんは ▲8七歩と耐えたけれど、頼みのチャリオットを壊されてしまっては望みがなくなってしまったわ。
みりあちゃんが時を刻む中、未央さんの指し手が乱れることはもはやなかった。
最後の時を迎える前、幸子ちゃんは悔しかったり苦しかったりじゃなくて、過去を振り返りながら、残念そうにしていたように私の瞳には映ったわ。
△7四金が手堅い決め手。
創成期から始まった水面下の競り合い、長い黄昏時、時の砂がこぼれ落ちてからの死闘……178手の戦いを制したのはニュージェネレーションズの旗手、本田未央
加蓮さんの待つ天上の舞台まで、また一歩近づいたわ。

 

おまけ

星屑を拾わず▲5八玉は機械の棋士により名を馳せた手だけど、天衣無縫のあの人は以前からよくこの術式を好んでいたわ。
Ponanza流ではなく康光流というべきではないかしら?
さて、中でもこの将棋は幸子ちゃんと未央さんの創世と同じで、こちらは△3三桂と跳ねているわ。

第68期順位戦
佐藤康-井上
http://member.meijinsen.jp/pay/kif/meijinsen/2009/08/07/A1/3979.html

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△3三桂 ▲8四飛 △8二歩 ▲9六歩 △7二金▲2四飛 △4二玉 ▲2八飛

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こちらは▲8三歩とレギオンを重ねる術式を採用しなかったわ。
これでも白の担い手は苦しいのには変わりはないけれど、まだ耐えることは可能だわ。
▲8三歩~▲8五角の術式は追憶の儀式にて指摘されていて、それならば「最短記録で敗れていたかもしれない」と井上先生は語っているわね。
追憶の儀式により語られし軌跡と、『盤上のシンデレラ』で私が語っている軌跡、比べてみると面白いかもしれないわ!

 

神崎蘭子