神谷奈緒のツンデレ過ぎる『第75期 順位戦A級一回戦 森内九段-渡辺竜王』観戦記と居角左美濃の話

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こんにちは!神谷奈緒だ!
今回はあたしが観戦記を書いていくからよろしく……何だこのタイトル!?
凛の時は普通だったじゃん!どうしてあたしの時だけこんなのついてるんだよ!
つ、ツンデレ過ぎるってどうすれば……。

べ、別にあたしが書きたかったわけじゃないんだからね!勘違いしないでよっ!

あああああぁぁぁああああ……。

はい!この話は終わり!将棋の話するぞ!

 

 

棋戦:第75期順位戦A級1回戦
持ち時間:6時間
先手:森内 俊之九段
後手:渡辺 明竜王

▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲5六歩 △8五歩

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今期の順位戦A級もついに開幕!
しかも初戦からいきなり森内九段-渡辺竜王ときたら見逃せないよな!
戦型は3手目▲6八銀から矢倉。
だけど今まで当たり前だった▲6六歩に、今課題が突きつけられてるんだよな。
左美濃急戦。居角左美濃……名前は統一されてないんだけど、コンピューター将棋発祥の有力な急戦だな。あたしは左美濃急戦って普段は呼んでるけど、未央の記事が居角左美濃だからそれに合わせとくかな……。
さて、その居角左美濃はプロ間でも流行始めてるところだったんだけど、まだA級のトップクラスの棋士は採用してなかったんだ。
でも8手目の△8五歩でにわかに急戦の可能性が高まったな。
元々時間の問題だったんだろうけど、ついに渡辺竜王が居角左美濃を採用する!?ってことで、事務所でも凄く盛り上がってたよ。

まあそれはそれとして早い△8五歩は後手の工夫で、出始めた当初より進化してるんだな。

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初期型で有名な叡王戦の森内-阿部光戦は八手目△5二金だったでしょ?
△8五歩を後回しにした場合、先手が▲7七角から雁木模様にしてくる可能性があるからじゃないかな?
そのあたりの話は前に未央がやってるな。

yaminomabot.hatenadiary.jp

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それで居角左美濃側がはっきり悪いわけじゃないけど、しっかり練っておかないといけない変化ではあるよな。
ただし、8手目の段階で△8五歩と突けば先手は▲7七角とは受けづらい。後手の形が決まってないからな。▲7七角を見て居角左美濃以外のことをやってくるかもしれないしな。
だから8手目△8五歩は形を決めているけど、それで大した不都合がないのなら、二重に角道を止めさせることでそれ以上に先手の形を決めさせているんだと思う。

 

▲7七銀 △3二銀 ▲2六歩 △6四歩 ▲2五歩 △6三銀 ▲7八金 △4二玉▲4八銀 △3一玉 ▲5七銀 △5四銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛△5二金右▲5八金 △7四歩 ▲4六銀 △7三桂 ▲2五飛 △2三歩 ▲5五歩△6三銀

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 そういうわけで、後手の作戦は居角左美濃
後手の駒組みには一手の無駄がなく、最速最短で堅い守りと威力のある攻撃陣を構築してるように見えるな。
繰り返しになるから一気に進めたけど、▲2四歩を受けなくてもいい……むしろ手損として咎めにいくっていう発想も斬新だよなぁ。
先手は▲4六銀と繰り出すことで右四間を牽制しつつ、▲5五歩と5筋の位を取るのが用意の作戦だったみたいだな。
銀を引かされたら右四間飛車はなし。
ただし、居角左美濃における右四間飛車はあくまで攻めのバリエーションの一つでしかないんだ。


先手の陣形によって仕掛け手順のパターンを分類しておくのがこの戦法を使いこなすコツの一つかな。
例えば▲4八銀型なら△6三銀型から△6五歩と仕掛ける。
何度も出てくる叡王戦の森内-阿部光戦のパターンだな。

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▲4六角に『盤上のシンデレラ』みたいに右四間。

 盤上のシンデレラ ~本田未央は純文学を破壊する~ 第12局 by 四駒関係(KKPP) アイドルマスター/動画 - ニコニコ動画

△4五銀も筋だから意識しておく。△4四歩~△4五銀もあるな。

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△6三金型も有力。

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△4五銀の筋と組み合わせるとか。

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△6三金は薄くなるけど攻めに厚みが加えられるし、最低でも盤上のシンデレラや未央の記事であった後手まあまあの局面に合流できそうなのも大きいかな。

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ずっと前にうちの事務所の方の未央が「この局面で後手を持って△6三金で良くすることにも意味がある」って言ってたのはそういうことか。最悪、ここに持ってくれば一局にはなるから。
しかしうちの事務所の方の未央ってどういう言い回しなんだ。

こんな感じで、仕掛けのパターンを作りやすくて準備もしやすいということで、実戦投入しやすいのもこの戦法のいいところだな。

正直なところあたしは別にこの戦法好きってわけじゃないんだけど……先手大変そうだよなぁやっぱり。

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は?なんだよ加蓮?……もっとツンデレっぽく?
いやいや!おかしいでしょ!

あ、あたしは居角左美濃なんか好きじゃないんだから!勘違いしないでよね!

……。

…………。


この将棋に!話を戻すと!先手は▲4六銀から5筋の位を取りにいったな。
これが今回の森内九段の用意の作戦だったわけだ!
んじゃそれがどうなるか、見ていくぞ!

 

▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △4四歩 ▲6九玉 △4三金 ▲2八飛 △2三歩▲6七金右 △5四歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲7五歩

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先手の細心の駒組みでとりあえず後手の速攻はなくなったな。まあこの戦法が衆目に触れてから結構経つのに、いつまでも簡単に吹き飛ばされてるのもどうなんだって思うけど。

さて、速攻がなくなった場合っていうのがこの居角左美濃が戦法として有力になっていくのに大事なポイントでさ。仕掛けを逃したらじわじわ作戦負けします……じゃ話にならないわけだ。
藤井システムが急戦持久戦の両方に対応できるからこそのシステムであるのと一緒だな。
そういった観点で現局面を見た場合……後手の方が模様が良いな。後手は角を無理なく転換できるし、駒も前に出てる。
先手は相変わらず角道が二重に止まってるし、引き角にするにも手数がかかる。
▲4六銀3七桂まで組んでるならまだしも▲3七歩型で銀だけ4六にあっても好形とは言えない。

居角左美濃は急戦での破壊力が話題になってるけど、持久戦模様になったとしても先手より柔軟な駒組みが可能なのだとしたら、流行を超えた本格的な戦法になるかもしれないな。


後手の模様良しということで、銀立ち矢倉から角を使おうということで▲7五歩と突いたけど、これには返しがあったな。

△4五歩

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先に△4五歩を利かすのが大事な一手だな。手順が前後すると今度は▲5五歩を先に利かされて駒を押し戻されてしまう。
ついでだから一直線に進んだ場合っていうのも見ておこうか。

【変化図】▲7四歩 △6五桂 ▲7三歩成 △7七桂成 ▲同 角 △4六歩▲8二と △4七歩成 ▲7二飛 △5六歩 ▲1五桂 △5七歩成

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▲2三桂成 △同 銀 ▲同飛成 △5二歩

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これで先手の後続手はなくなってる。後手からは△5八銀くらいでどうしようもないから後手勝ち。
まあこれは後手にとって都合の良過ぎる手順なんだけど、▲2三飛成は怖いようで意外と響かない場合があるってことだけ頭の片隅に置いといたらいいかな。

 

▲5七銀 △8四飛▲5五歩 △同 銀 ▲5六歩 △4四銀 ▲7六銀 △5三銀 ▲7九玉 △1四歩▲9六歩 △9四歩 ▲1六歩 △5四銀 ▲4六歩

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△同 歩 ▲同 銀 △1三角▲4七歩 △4五歩 ▲5七銀 △2二角 ▲4六歩

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あーーーっと、これは……と怪しい雰囲気が出てきたところ。
最初に同一局面にしたのは後手の方だけど、先手が迷いなく▲4六歩で千日手手順に追随してるな。
森内九段もやっぱり失敗したと思ってたんだろう。

 

△同 歩 ▲同 銀 △4五歩▲5七銀 △4四角

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そういうわけで後手の方が打開。後手だから千日手でもOKとはいえ有利となったら話は別だからな。
それでも千日手にする人は……いるなぁ。まあでも永瀬先生くらいだろう。

▲6五歩

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ただ、△4四角は危険だったかもしれない。▲6五歩と先手から突かれてしまった。
本来は先手からは出来ないはずだったんだけど、 △4四角としたために生じた筋だな。
△6五同歩は▲4四角△同金▲5三角の王手金取り。
以降後手はずっとこの筋に煩わされることになる。
これで先手も悪いなりに、かなりやる気の出る展開になったな。

 

△5五歩 ▲6四歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛▲8七銀 △8三飛

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どこにでも引けるところだったけど、△8三飛が△6五桂と跳ねたあとにと▲6三歩成や例の▲5三角王手金の筋を受けていて最善の引き場所だったな。
トップ棋士のこういう小さなところでも良さを求めて最善を積み重ねていくところは参考にしたいよなぁ。

 

 

▲8四歩 △同 飛 ▲8六歩 △6五桂 ▲6八銀 △4六歩▲4八飛 △4五銀 ▲6三歩成

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△4五銀でと金を作らせたのには驚いたなあ。
渡辺竜王は「5三に歩が垂らせないので」って簡単に言ってたけど。
まあ確かにこういうのって5筋に垂らされると処置になってしまうのはあるんだけどさ。さっきの変化手順もそうだったし。

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だからといって平然とと金作らせて大丈夫って見切ってるのは流石だと思うよ。

 

△7五歩 ▲6六金 △6七歩 ▲同金上 △8五歩▲同 歩 △8六歩 ▲同 銀 △8七歩 ▲9七角 △9五歩 ▲7八玉 △9六歩▲7九角 △5六歩

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先の王手角の筋を見せられてるから後手の攻め筋は細くなってしまってるんだけど、渡辺竜王は細い攻めを繋げるのは将棋界一。ここからの手順は芸術的だったな。

飛車を見捨てながら8筋を連続で叩いて端を詰めて角を追い込み、ついに△5六歩を実現。
さっきのと金を作らせた△4五銀は完全に先手の大駒を押さえ込んでる。
このあたりの手順は是非自分の手で並べてみて欲しいな!

 

▲8四歩 △5七歩成 ▲同 銀 △同桂成 ▲同 金 △5六歩▲6七金寄 △6五歩 ▲同 金 △9九角成 ▲5二と △同 金 ▲7一飛 △2二玉▲9一飛成 △9八銀 ▲2四歩 △8九馬 ▲7七玉

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諦めない森内九段は入玉を目指したな。
形勢そのものは後手勝勢、入玉するのは難しいし、入れたところで点数状況も厳しいんだけど……A級順位戦の初戦だからな。
望みがないからってそう簡単に諦められるものじゃないんだ。
相手が諦めない限り喉笛に噛みつかれるおそれはずっとあるから、渡辺竜王は最後まで絶対に勝ちを逃さないように慎重に指してる。

 

△7九馬 ▲9八飛 △8八歩成▲2三歩成 △同 玉 ▲2四歩 △3三玉 ▲6六玉 △6三桂 ▲7五銀 △9八と▲4四歩 △同 金 ▲4一銀 △5五金 ▲7六玉 △6五金 ▲同 玉 △5五飛▲6四玉 △5三金 ▲7三玉 △7五飛 ▲7四歩 △6四角まで150手で後手の勝ち

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そしてついに先手投了。
一分将棋だったから後で調べれば違う最善が見つかるのかもしれないけど、あまり意味はないかな。先手の執念を目の当たりにしても最後までリードを手放さなかった後手の勝ち。
棋王戦第三局の将棋もそうだったよな。天彦名人の執念の粘りに手を焼きながら、それでも絶対に逆転は許さなかった。
粘る方も凄いけど、あたしは竜王の方により凄みを感じるなあ。

 

さて、本局は居角左美濃っていうコンピューター発の戦法の最前線の将棋でありながら、0時を超えた頃には両対局者の順位戦に賭ける思いが伝わってくるような戦いになってたよな。

これからの時代は、こういう将棋が人間の将棋のスタンダードになっていくのかもなぁ。

 

え?なに?ツンデレっぽく締めて?
いや、タイトルなのは知ってるけど脈絡なく最初と最後にねじ込むのってどうなんだ……?
分かったよ!やればいいんだろやれば!

 

こ、ここまで読んでくれて感謝なんかしてないんだからね!!

 

あぁあぁ……。

 

神谷奈緒