ありすレポート『第30期竜王戦6組ランキング戦決勝 近藤誠也五段-藤井聡太四段』

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こんにちは、橘ありすです。
今回は私が事務所代表として筆をとることになりました。

さて、藤井聡太四段をご存知でしょうか?もちろん知ってますか。
最近では毎日のようにテレビのニュースなんかで目にしますね。アイドルの私に言わせれば、そういう星の巡りの下にあるのが一番の才能ですよ。
藤井四段はプロデビュー以前から大器だといわれていて、将棋関係者やファンの間では知られた存在でした。しかしいざデビューしてみると……これが想像を遙かに上回る怪物でしたね。
事務所でもみなさんよく話題にしています。
何故彼はあんなにも強いのでしょう? 是非その秘密を解析し、真似できるように、具体的にノウハウ化して、マニュアル化出来るようにするべきです。
今回ではその強さの秘密について、デビュー後の公式戦の中でも特に大きな一番であった第30期竜王戦6組ランキング戦の将棋からレポートします。
文香さんのように上手く書けるかわかりませんけど、よろしくお願いします。

 
棋戦:第30期竜王戦6組ランキング戦決勝
場所:東京・将棋会館『特別対局室』
先手:近藤誠也五段
後手:藤井聡太四段
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金▲3八銀 △7二銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩▲2八飛△3四歩 ▲2七銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛▲8七歩 △8四飛 

近藤誠也五段についてまず確認しておく必要があるでしょう。
前年度戦績は44勝18敗(0.733)という素晴らしい成績でした。
これがどのように好成績かといいますと、おおよその目安として、年度30勝を超えた棋士は年間通じて大活躍したと考えて差し支えありません。
勝率は通算と年度で違いますが、通算六割を超えれば一流、年度七割を超えた年は絶好調だった、みていいでしょう。
ちなみに羽生三冠は対局数1900局を超えながら勝率七割以上を維持しています。数字の上でも羽生三冠がいかに傑出した存在なのかが読み取れますね。
さらに近藤五段の戦績で特筆すべきは、王将戦初参加にして挑戦者決定戦リーグにまで勝ち進んだことです。これは第39期の屋敷四段以来、実に27年ぶりの快挙でした。
リーグでは陥落したものの、羽生三冠と豊島七段(当時)に勝利するという堂々の成績でした。
つまり、近藤誠也五段は関東若手の中でもトップランナーで、藤井四段からすると連勝を止めうる強敵というわけです!

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といったところで図面を確認します。
相掛かりですね。ありすレポートとしては好都合な戦型です。
ここまで藤井四段の将棋は角換わりが多かったのですが、対局者の個性を読み取るのに今の角換わりはあまり適しているとはいえません。
現在角換わりは定跡の転換期で、誰が指してもそれなりに新しい、ぼんやりした感じになってしまうのです。
もう少し定跡が固まれば、対局者の好む形や展開の傾向も見通せるようになってくると思うのですが、それはもうしばらく先になりそうです。


▲3六銀 △3三角 ▲7六歩 △4二玉▲5八金 △2二銀 ▲6九玉 △7四歩 ▲6六歩 △2四歩

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ここで△2四歩が藤井四段の新構想。私も見たことのない一手でした。
△2四歩から銀冠(※)を作りにいくこと自体は頻出の手筋なのです。

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でも、通常は3三にいる駒が桂の状態でやります。

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例えばこのような将棋ですね。
これも銀冠の作りかけですが、▲2四飛と歩を取ると△2五歩と退路をふさがれてしまいます。桂の利きが上手く2五と4五をカバーして銀に上部を攻められないようになっています。
そこでもう一度さっきの局面を見てみましょう。

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△3三桂型では成立しなかった▲2五歩が気になりますね。
しかし、相手は藤井四段です。罠かもしれません。
ためらってしまうところですが……。


▲2五歩

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近藤五段は踏み込みました。
罠かもしれない、とはいえ△2四歩を看過しては後手に悠々と銀冠の形を作られてしまいます。罠かもしれないと分かっていたとしても、この手を咎めにいかないわけにはいけなったともいえます。

 

△同 歩 ▲同 銀 △7五歩 ▲同 歩 △3五歩▲4六歩 △2四歩 ▲1六銀△2三銀

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結果的に、先手は△2四歩を咎めることは出来ませんでした。
40手目の局面、先手の銀は働きの悪い1六に追いやられ、後手は銀冠を完成しました。そして結局のところ、先手は終局までこの銀を使えませんでした。
ポイントは先手の玉形にあります。
隙のない後手陣に比べて、先手陣は3九に王手で飛車を打たれるスペースがあるのが分かるでしょうか。

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少し局面を戻します。もし先手がとことんまで後手を懲らしめようとするならば、ここで▲2四歩と打って頭から抑えつけるべきでしょう。
しかし、そうすると△2三歩 ▲同歩成 △同 銀 ▲2四歩 △同 銀▲同 銀 △同 飛と飛車をぶつけられてしまいます。

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先ほど言った通り、飛車交換は△3九飛と王手で飛車を打たれてしまうので先手が不利です。
このように、欲張った後手の△2四歩を咎めにいったにも関わらず、とことんまで踏み込んだらはっきり先手が悪くなってしまうというのは、序盤戦の明暗がくっきり分かれてしまったことを意味します。
遡ると、29手目の▲6六歩が△2四歩を軽視した一手だった、ということになるのかもしれません。
ただし、それは単なるうっかりではなく、△2四歩がプロでも目にしないような、新しい構想の一手だったという点は強調しておかなくてはいけないでしょう。
藤井四段の真骨頂は圧倒的な終盤力だというのは誰もが納得するところでしょうけれど、こんな中盤の入り口で、先手の些細な一手を見たことのない発想で咎めきる能力を持っているというのは、感心を通り越して空恐ろしささえ感じます。
彼には一体、どんな風に世界が見えているのでしょう……。

 

▲6八銀 △6四歩▲6七銀 △7三桂 ▲7九玉 △6五歩 ▲同 歩 △3六歩▲同 歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3三角成 △同 桂▲7四歩 △6五桂 ▲8七歩 △4六飛 ▲4七歩 △3六飛▲3七歩 △5五角

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一気に進めました。後手が軽やかに、しかし厳しく攻めかかっています。
将棋というゲームで直接的に勝敗を左右するのは終盤の一手ですが、序中盤の構想段階でどうにもならなくなってしまうことも時にはあります。
「良い将棋を指したい」というのは定義のない曖昧な言葉です。しかしもし負けるとしても、最終盤までどちらに転ぶか分からないような熱い戦いがしたい、というのは将棋指しの願いとしてあると思います。
近藤五段は不本意だったでしょう。近藤五段だってどうしても勝ちたい一局ですし、藤井フィーバーに押し流されるために今までやってきたわけではありませんから。
ここから将棋が終わるまで間に、藤井四段が何かミスを犯せば近藤五段にもチャンスが巡ってきます。しかし、そうでなければ……。

 

▲7三歩成 △7七歩 ▲6八金左 △7三角▲1八飛 △3四飛 ▲5六角 △3六歩 ▲同 歩 △同 飛▲3七歩 △5六飛 ▲同 銀 △5四角 ▲3六歩 △4五桂▲7七桂 △同桂成 ▲同 金 △7六歩 ▲6七金寄 △6六歩▲6八金引 △7七歩成 ▲同 金 △7六歩 ▲7八金 △6五桂▲4六桂 △同 角 ▲同 歩 △7七歩成 ▲4五歩 △6七桂▲同 銀 △同歩成 ▲同金右 △7八と ▲同 玉 △4五角まで藤井四段の勝ち

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この将棋はモバイル中継アプリで無料で公開されているので、動く盤面で見てみることをおすすめします。感想戦の内容や変化についてもコメントで書かれていますし。
一切の無駄のない駒捌き、本で見たような手筋、ため息の出るような華麗な収束を見ることが出来ることを約束します。
そしてもっと興味を持てば、月額500円かかりますけど他の棋士の対局も是非見て欲しいですね。
藤井四段だけではなく、ベテランから若手まで、様々な棋士が日々真剣勝負をしています。みんなが必死に考え悩んだ末に、好手を放ち、時には悪手を指して、勝ったり負けたりしています。
えっと、藤井四段だけに注目してセンセーショナルに騒ぐのは良くないと言いたいわけではありません。その世界全体を知ることで、藤井四段がいかに凄いことをやっているのかがもっとよく分かると思います。

さて、藤井四段の強さですけど、まるで底が見えません。底が見えないものを解析することは出来ません。
残念ですが、最年少棋士のノウハウをマニュアル化するのは次の機会にしたいと思います。以上、橘ありすでした。

【橘ありす】