神崎蘭子の『第75期名人戦 七番勝負 第5局 佐藤天彦名人-稲葉陽八段』グリモワール

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クックック……我が名は神崎蘭子……!闇に飲まれよ!
(神崎蘭子です!お疲れ様です)

今宵、我がグリモワールは新たな贄を求めているわ!
(そろそろ私もブログ更新しようかなって!)

されば、奥深き歴史の淵より生み出されし舞台!
名人戦七番勝負の戦いを我がグリモワールに刻み込まん!
(名人戦について書きます!)

 

持ち時間:9時間
棋戦:第75期名人戦七番勝負第5局
場所:岡山県倉敷市「料理旅館 鶴形
先手:佐藤 天彦名人
後手:稲葉 陽八段

▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛

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かつて名人の冠は永きに渡り、たった二人の棋士に支配されていたわ。
羽生善治森内俊之……彼らは互い以外の挑戦者を撥ね除け続け、あたかもこの夢舞台は、二人だけのものであるかのように感じてしまうほどだった。
(何年も名人は羽生さんか森内でしたよね)


しかし去年、均衡し続けた世界についに風穴が開いたわ!
そう、新たなる名人の誕生……それは若人が超えられなかった壁をついに乗り越えた瞬間だった。
(去年新しい名人が生まれました!)

その死闘の様子、時代が動いた瞬間を、文香さんがグリモワールに刻んでいるわ!

前に進み出した時を止められるものが、果たして本当に存在するのかしら?
森内九段は順位戦を去り、そして今年新たに挑戦者へ名乗りを上げたのは、去年と同様に、初めて天上の地へ足を踏み入れた若者だったわ。
(今年も初のA級順位戦昇級者が挑戦者です!)

天彦名人と稲葉八段……私達は既に、新たな時代に立っている。
(新時代来ちゃってます??)

 

△3三角 ▲6八玉

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黒白の星を互いに二つずつ分け合い、命運を分かつであろう大きな戦いに稲葉八段の選びし術式は星屑の輪舞!
(二勝二敗で五局目は横歩取りです!)

天彦名人も稲葉八段も共に星屑の輪舞の名手なれど、これを放つのは第一局以来ね!特に天彦名人は去年自らが最も恃みとした星屑の輪舞の使用を減らしているのが気になるわね。
(どっちも横歩取りは得意なはずだけど、天彦名人は最近横歩取りあまりやりませんね。去年はそれで凄く勝ってたのに)

さて、天彦名人が選びしは▲6八玉!勇気流と呼ばれる魔術ね!
(▲6八玉は勇気流ですよ!)

王自らが7八を守護していて△7六飛に強いわ。一方で、4九の金が浮いていて2七にビショップを打ち込まれる隙が生じているのね。
新たなる黒魔法としては最も注目を浴びている術式、両者が何を用意しているか注目ね!
(注目の戦型です!どんな作戦があるのかな?)

△2二銀▲3六歩 △8二飛 ▲3七桂 △8八角成 ▲同 銀 △3三銀▲8三歩 △同 飛 ▲8四歩 △8二飛 ▲3五飛 △8四飛▲7五角 △8二飛

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勇気流には激しい変化を多く眠っているわ。
ここで語るには多すぎるほどに……。その世界の一端は、世紀末歌姫の事務所のグリモワールを見るといいわ。
(勇気流は難しいから気になる人は楓さんの事務所の解説記事を読んで下さい)

△8二飛は真っ白な雪原に足を踏み入れる一手ね!先を行った者達は皆△2四飛と回っていたわ。
(△8二飛が新手で前例は△2四飛みたいです)

しかしこれは星屑の輪舞、その中でもさらに激しい勇気流……雪原とはまさに急峻なる尾根を意味するの。
(横歩取りでも勇気流は特に激しくて間違いが許されません)

互いが持っている時は九つずつ、二日渡って指し継ぐことになっているわ。
しかし、一日目に踏み出した新たな一歩がそのまま奈落への一歩であることも、決して有り得ないことではない!
(名人戦は持ち時間九時間の二日制だけど、一日目ではっきりしちゃうかも)

ひとまず△5三角成が瞳に映るところなれど、まだその時ではないわ。5筋の兵を討ち取ってしまうと、△5六歩と攻められる可能性がある。それで悪いわけではないけれど、無闇に相手に権利を与えるのは得策ではないわ。
(△5三角成はぱっと見えるけど、5筋に歩が利いちゃうから後回しの方がいいのかな。悪くはないと思うけど)

▲4五桂 △4四角 ▲8四歩 △5二金▲3三桂成 △同 桂 ▲3四飛 △5五角 ▲4六銀

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△6四角▲6六角 △4四歩 ▲5五銀 △同 角 ▲同 角 △4三金右

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颯爽と跳ね出したナイトは銀の戦士と差し違えたわ!
(銀桂交換になりました)

今の将棋はナイトを捌くことの価値がとても高いとされているわ。銀と差し違えるなら、十分以上の戦果といえるかもしれないわね。
(最近は桂は捌ければ十分って将棋がよくありますよね。銀桂交換なら上々じゃないでしょうか)

そして手に入れた銀の戦士を使って、今度は▲4六銀と白のビショップを迫害する……!

(銀で角をいじめます)


ナイトがシルバーに、シルバーがビショップに、少しずつ天彦名人がポイントを上げたところで一日目が終わったわ。
(わらしべ長者)

稲葉八段は一日目にして底のない沼に足を踏み入れてしまったのかもしれないわ。
(稲葉八段はもう誤算があったかも)

だけど、闇の向こうに踏み出した足がどんな地を踏むか、一体誰に分かるというのかしら?
(でも新手の成否なんて指してみないと分からないですよね)

恐れながらも踏み込んだ一歩。
その先にはそこにはしっかりとした大地があるのかもしれない。
足場の脆い崖かもしれない。
あるいは、全身を飲み込む底なし沼。
今や人智を超えた力を持つ電脳でさえ、果ての無い闇を消し去るほどの光は持っていない。
しかし、何よりも大切なのは、どんな世界に降りようとも、例え傷ついたでも戦い続ける意思!私はそう信じているわ!
(上手くいかなくても頑張るのが大事です!)
 

▲2四飛 △2二歩 ▲8三歩成 △同 飛 ▲6五角 △8二飛▲2二飛成 △同 金 ▲4三角成 △4二銀 ▲3四馬

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△4三桂▲4四角 △3八歩 ▲同 銀 △3七歩 ▲2九銀 △3二金▲2四歩 △2二歩

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封じられし未来への律動は▲2四飛!これは予想された手ね。
(封じ手は▲2四飛でした。予想してました?)

▲2二飛成と強襲を決行した後、じっと駒を引くのは流石の呼吸かしら。
相手の魔力をじわじわと奪い取る指し回しは天彦名人の最も得意とするところよ。
昨日太陽が消え去りし時は、未だ難解と囁かれていたけど、ここまでくればやはり天彦名人の有利ははっきりしているわね。
(封じ手前は難解とも言われてたけど、やっぱり名人がいいみたい)

稲葉八段は何か、何か突破口を見いだしたいけれど……。

 

▲6六角 △6四歩 ▲8四歩 △6五歩▲7五角 △7二銀 ▲7七桂 △5二玉 ▲4四馬 △7四飛▲2六馬 △2四飛 ▲2五歩 △8四飛寄 ▲同 角

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ここは▲6五桂の跳躍もあったかもしれないわ。
△8八飛成なら▲5三馬△4一玉▲5二金打 △3一玉▲4二金△2一玉▲3二金△同 玉▲3一馬△2三玉▲2四金打 △1二玉▲2一銀打で白の王は囚われている!
(▲6五桂に△8八飛成なら詰みます)

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これでもきっと優勢なのは変わりなかったとでしょう。
しかし、名人はこれを選ばなかったわ。

 

△同 飛▲3七馬 △6六歩 ▲8五歩 △3四飛 ▲7一飛 △4五角▲1一飛成 △3一歩 ▲6六歩 △3六飛 ▲同 馬 △同 角▲3八銀

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名人の紡ぐ軌跡は常に一貫しているわ!
決して油断せず、僅かな可能性すらもないがしろにせず、水の一滴すらも漏らさない。
そしてそれを可能にするのは天彦名人の強靱な心……!
如何に優勢だとしても、実際に勝ちに到達するのは天と地の差があるもの。
当然ながら、勝負は生きる者は誰もがそのことを知り尽くしているわ。
だからこそ、思ってしまうの。
早く決着をつけてしまいたい……と。
天彦名人の最大の武器は、己を律する強さなのね!
(焦らないですよねぇ。凄いなぁ)

▲3八銀 △6七歩 ▲7九玉 △4五桂 ▲5八金 △4六歩▲8二飛 △6八角 ▲8九玉 △5七桂成 ▲6五香

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まで107手で先手の勝ち


この将棋の勝負の分かれ目は、やはり一日目に過ぎ去っていたわ。
己の非勢を知りながら、読む手全てが自らに不都合な手順ばかりでありながら、それでも稲葉八段は指し続けたの。
諦めない、とはきっと違う。逆転が不可能に近いのを誰よりも感じているのは自分自身だから。もしかしら……なんて甘い希望を抱いたりはしなかったと思う。
太陽が昇っている間に終わってしまってもおかしくなかった将棋をこの時間まで、最後まで天彦名人に楽をさせなかったのは、稲葉八段の将棋への真摯さなんじゃないかな……。


今回の将棋、稲葉八段は己が魔力を発揮することできなかった。
されど、心の翼は折れてはいない!
(稲葉八段は不本意な将棋になっちゃったけど、大丈夫だと思います!)


新時代の名人戦、決着の時は近い……。
最後のその瞬間まで、素晴らしき熱戦を期待するわ!
盤上の戦士達よ!次に相まみえるその時まで……闇に飲まれよ!
(お疲れ様でした!次の対局も頑張って下さい!)

 

神崎蘭子】(翻訳:輿水幸子)