浜口あやめの『第74期順位戦A級8回戦 渡辺-屋敷』ニンジャ・カンセンキ・ライティング

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皆様こんにちは!
わたくし伊賀忍者がお膝下にて生まれ育ちました、浜口あやめと申します。
くノ一忍ドルとして、日々鍛錬に励みつつ舞台に立っております!
本日はわたくしの大切な友人であります、神崎蘭子殿の将棋忍法帳に我が秘伝の忍術について書き綴る所存です!ニンッ!

 

 

第74期順位戦A級8回戦
先手:渡辺明竜王
後手:屋敷伸之九段

▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀▲5六歩△5四歩▲4八銀△4二銀▲5八金右△3二金▲7八金△4一玉▲6九玉△8五歩▲7七銀
△5三銀右▲6七金右△6四銀

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本日私が紹介させて頂きます棋譜は、第74期順位戦A級8回戦・渡辺明竜王屋敷伸之九段の一戦です!
渡辺竜王は今更紹介するまでもありませんな!史上4人目の中学生棋士にして唯一の永世竜王
渡辺竜王の活躍は蘭子殿の忍法帳でも度々取り上げられております。前回の加蓮殿の忍法帳もなかなか力が入っております故、興味のある方はこちらもご覧あれ!
そして後手の棋士
みなさまいいですか?
ここだけの話ですけど、実は将棋棋士には……忍者がいるのです!
信じられないのも無理はありますまい。
しかしわたくしも忍者の端くれ。
同族を見つけては黙ってはおれないのですな!ニン!
そしてそう……!
その棋士こそ屋敷伸之九段!その変幻自在な指し回しは人呼んで忍者屋敷!
本日はこの不肖浜口あやめが、屋敷九段と彼の扱う忍法・忍者銀について語って……え?あやめが忍者屋敷ってそのまんま?
いいんです!こーいうところは変にひねらなくても!

ささっ!果たして忍者屋敷とは、忍者銀とは何なのか?
百聞は一見に如かずです!
早速棋譜を見ていくとしましょう!

▲7六歩△8四歩▲6八銀から戦型は相矢倉に。
普通はこのまま矢倉に組み合うか先手が早囲いするかといった駆け引きが行われるところですけど、後手は屋敷九段。
 20手目にして既に忍術は始まっています!
△6四銀!
速い!急戦にしてもやたらと出足が速い!ついでに△8五歩を決めるのも速い!
これぞ屋敷九段の忍術!
さあ、忍者銀の出陣です!



▲2六歩△5五歩▲同 歩△同 銀▲5六歩△6四銀▲2五歩△5三銀上▲7九角△4四銀

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もう一つの銀も繰り出して二枚銀!
いやあ、このあたりの手順の裏にどういう研究がとか水面下の変化はとか、わたくしさっぱり分からないのですけど、A級順位戦という舞台で銀が手裏剣のように飛んでいくのを見るだけでわくわくしてきます!
あやめは初めて見る時代劇の再放送を観賞するような心持ちです!
さて、コンピューター将棋の隆盛で、特に急戦矢倉においては2筋の歩は切らせても別に構わないのでは?という問題が昨今提唱されていますが、△5三銀上では別に△3三銀もあったと思います。
例えば△3三銀~△3一角~△5二金と堀を作り城を建て……と、これは侍の指し回しですね。もちろん有力ですけど、でもそれじゃ忍者じゃないですから!

 

▲3六歩△7四歩▲2四歩△同 歩▲同 角△3五歩▲7九玉△2三歩▲1五角△1四歩▲2六角△7五歩▲同 歩

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ニンニン!っと△7五歩と軽く仕掛けて銀を捌いて、と忍者らしい軽快な身のこなしですね。
後手陣は大きく翼を広げてあまり見ない形になっています。形に囚われないのが忍びの極意……勉強になりますね!
ここの手順は先手の渡辺竜王もらしい指し回しをしています。
角を2四の地点においたまま、玉を入城させたあたりです。
これぞ先ほど申しました侍の指し回しそのものでしょう!
しかも渡辺竜王ともなればただの侍ではない、天下人!
さあ、天下人にも忍者の苦無は届くのでしょうか?

 

△同 銀▲3七角△5五歩▲3五歩△8六歩▲同 歩△同 銀▲同 銀△同 飛▲8七歩△8二飛▲8八玉△3六歩▲4六角△4五銀▲5五角△同 角▲同 歩△4九角

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屋敷九段の忍者銀ですけど、特徴の一つに形勢判断が非常に難しい、というのがある気がします。
一見差がついているように見えて、案外そうでもなかったり、簡単そうに見えた手順が意外と難解で深かったり、といった具合ですね。
これまた夜闇に忍ぶ忍者の如し、です!
例えば▲3七角のところですけど、もっと前に△3六歩と取り込むことが出来たわけで、そう指していればこの角はありませんでした。
この角自体は△5五歩で止められるので問題はないのですけど、かといって△3六歩と取り込む変化が駄目となるわけではないのです。
どちらも有力なように思えるのですけど、何故屋敷九段があえて△3六歩としない方を選んだのか、それが余人には分かりませぬ。
このように一手一手がとても難しく、難解な手順の裏にどんな秘伝が隠されているのか、理解しているのは屋敷九段本人だけではないでしょうか?
ですから、指し手の意味がよく分からなくて解説できないのはわたくしの棋力が足りないからではないのです!
ごめんなさいそれもあります。ニン…。

最終図の△4九角は先手の対応が難しいですね。先に▲2四歩△同歩をいれておけば▲5四歩△同銀に▲2四飛と十字飛車で走れた……というのは手順としてはありますけど、どの道▲5四歩△同銀とはしない気もしますしね。

 

▲2二歩△6九銀▲6八金引△7八銀成▲同 金△6七金▲7九金

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正解は▲2二歩!
手裏剣の歩ですね。これは、そう……渡辺竜王もまた忍者魂の持ち主と見ました!
忍者は心ですから。
そう、つまり刃を心に忍ばせまして、闘志を内に秘めて指す将棋指しはやはり忍者の素質があるとわたくしは思います。
かの江戸時代の大棋士棋聖・天野宗歩は忍者だったという説もあるくらいですから、これはもう棋士=忍者といっても過言ではないのでは!?
一番忍者なのはもちろん屋敷九段ですけどね!

おっと閑話休題
△6七金に▲7九金は少々意表を突かれますね。
ここは▲同金△同馬に▲7七金と先手を打って駒を弾きたいところですから。
金を引いては手番が後手に行く上に、急所に駒が残り続けますからね。
当初は渡辺竜王もそのつもりだったそうですが、△7七馬▲同玉△6七金▲同玉△8七飛成と強引に龍を作られると先手が負けそう……ということで予定変更だったそうです。

△5八角成▲6九銀△7八歩▲同 銀△同 金▲同 金△6七銀▲7九銀△7八銀成▲同 銀△6八金▲2一歩成

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とはいえ、後手の攻めが細いのは変わりが無かったですね。
特に先手は持ち駒も多いですから、少しでも緩めば簡単に攻めを切らされてしまいます。
81手目▲2一歩成の局面は先手に勝ちがありそう、というのが対局者の一致した感覚だったそうです。
この手順中、金銀の打ち換えが行われているのですけど、これは先手の得になっているようです。
何かの拍子に△7八金に▲同玉とできずに▲9八玉と逃げるしかなかった場合、7八に落ちている駒が金なら一手詰ですけど、銀だと詰みませんからね!
これぞ忍法変わり身の術です!
って、これも忍術使ってるの先手じゃないですか!?
いやいや、竜王恐るべしですね!

△7八金▲同 玉△7六銀

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しかし、それもまた忍者の幻術!イザナミです!
たった三手進んだこの局面。
単純に銀を打って詰めろを掛けた局面……なんですけど、ここで先手の指す手が難しい……!
▲7九桂は△5六銀と攻め駒を足されてしまいます。▲8六桂も同じですね。

 

▲9六角

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よって先手の選んだのは▲9六角!
これは△8七銀以下の詰めろを受けながら後手玉に▲6三角成△5二金▲5三桂△4二玉▲4一金△3三玉▲3四銀△同 銀▲同 歩△同 玉▲3五銀△同 玉▲4五金までの詰めろを掛けている、詰めろ逃れの詰めろですね!

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詰み上がり図はこんな感じです。ちなみに後の変化のために6七~4五のあたりのラインをぼんやり眺めておいて下さい!
忍法予習の術です!

 

△6七馬▲6九玉△8七銀不成▲8三歩

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△8七銀不成が角に当てながら先手玉を攻める気分のいい手ですね!
飛頭に歩を打ちましたが角を取って後手優勢です!
ちなみにさっき▲9六角が詰めろになっていると言いましたけど、この局面は後手玉に詰みはないのでしょうか?
確認してみましょう!
▲6三角成△5二金▲5三桂△4二玉▲4一金△3三玉▲3四銀△同 銀▲同 歩……はいストップ!ここです!

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3四の地点に馬が利いてます!即ち不詰みです!
先の△6七馬は王手をかけながら後手玉の詰み筋を消していたんです!
攻守一体!忍は馬術も完璧です!

△9六銀不成▲5八銀△7八角▲5九玉△8三飛▲7九金△8九角成▲5三桂△5二玉▲6一桂成△7七馬▲4九玉△7九馬

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以下は着実に先手玉を追い詰めて……。

 

▲5四歩△同 銀▲9六歩△6一玉▲5三金△6二金

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最後のお願いもしっかり受け止めて……。

 

▲7三歩△8八飛成▲4一銀△7三桂▲7四歩△7二玉▲7三歩成△同 玉▲5四金△5七歩▲同銀右△同 馬まで後手屋敷九段の勝ち

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見事に後手が勝利です!

如何でしたでしょうか?屋敷九段の忍法・忍者銀!
一見単純な銀の繰り出しですが、それは仮の姿……その手順、形勢は杳として掴み所がなく、気がつけば喉笛を切り裂かれている……。
この将棋も先手の敗着は不明……と、まさに忍者を体現したような指し回しでした!
どうやら将棋道もまた、忍道に劣らぬ深いものだと、わたくし改めて感じ入りました次第です!
来季のA級でも、屋敷九段の忍者銀にご注目あれ!
ではこれにて失礼!ニンニン!

浜口あやめ