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依田は芳乃の『第87期棋聖戦五番勝負 第2局 永瀬六段‐羽生棋聖』観戦記でしてー

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わたくし依田は芳乃と申しましてー。
昨日事務所内で祝福の儀を終えましたゆえにー、そのまま観戦記を認めましょー。
お題は棋聖戦第2局で、これもまたわたくしのさだめなのでしょー。

 今期の羽生棋聖は不調でしてー、六連敗中というのは今までになかったことであるがゆえにー、皆が心配するのも必定でしょうー。

悪しき流れは邪の気により起こるものでしてー、必要であればわたくしが羽生棋聖に祓えを致しましょうと構えておりますればー、前夜祭の写真にて羽生棋聖が眼鏡を新調してましてー、これは大丈夫とわたくし安心しましてー。

将棋の知識はすぐに忘れるものではなくー、また技巧も短き間に急速に衰えるものでもありませねばー、邪気に囚われぬよう気の持ち方を変えさえすればー、わたくしが祓わずとも自ら清めることは出来ましてー。

眼鏡など小さなことから気分を変えるのはー、心得たものだと感心したのですー。

それでは気分を改めた羽生棋聖の将棋を見てみましょー、いざー。

 

表題:棋聖戦
先手:永瀬拓矢六段
後手:羽生善治棋聖

▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀

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戦型は矢倉になりまして-、羽生棋聖は第一局に続いて後手番でして-、前局は千日手指し直しになりましたゆえにまた後手なのですー。

5手目は▲7七銀でしてー、▲6六歩は居角左美濃急戦がありましたゆえー、警戒したのでしょー。

第一局の指し直し局は▲6六歩でしてー、羽生棋聖はやらなそうというのはあったでしょうー。しかしそれから渡辺竜王が居角左美濃急戦を指しましたゆえにー、もはや無視できぬものになったのでしょうー。

 

△6二銀▲5六歩 △5四歩 ▲5八金右 △4二銀 ▲4八銀 △3二金▲2六歩 △4一玉 ▲6六歩 △7四歩 ▲6七金 △5二金▲7九角 △3三銀 ▲3六歩 △3一角 ▲3七銀 △6四角▲6八玉 △4四歩 ▲7八玉 △3一玉 ▲8八玉 △4三金右▲7八金 △2二玉 ▲4六銀 △5三銀

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長手数進めまするー。
ここまでは矢倉の定跡形で前例も多い進行ゆえにー、各々方で並べて下さいまし-。
▲4六銀が先手の作戦でしてー。
今は姿なき▲4六銀3七桂に組もうとしているのでしてー。
本来は△4五歩から塚田流と言われる反発策がありましてー、後手良しが通説でありますれどー、先手は早囲いで一手得しているゆえにー、この場合は先手がよく出来るかもしれませぬー。
そしてそこにこそー、永瀬六段の研究があったのでしょー。
されどー、羽生棋聖の選択は△5三銀でしてー、永瀬六段の研究はかわしたでしょー。しかしそれは▲4六銀3七桂を許すことになりまして-、さてどんな構想を描いているのでございましょー?

 

▲3七桂 △2四銀▲1六歩 △1四歩 ▲5八飛

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先手は早囲いで▲6八角を保留してますゆえー、通常の▲4六銀3七桂型より一手得しているのですー。

しかしその分、簡単に攻められるようにはならぬところ、将棋の難しさでしてー、宮田新手順に似た流れになっても後手の手損が逆に活きる可能性がありますればー。
通常は後手の△8五歩か△9五歩の選択を見て-、先手が後出しじゃんけんしますゆえー、これが早囲いのためにできなくなっておりますー

▲6八角と手損して以前の定跡に合流しましてもー、ぽなんざ新手とその亜流がありましてー。

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△4五歩反発で▲4六銀3七桂そのものがなくなりましたゆえー、問題が解決しないまま野ざらしにされておりましてー、単純にここに行けば先手良しとはなりませぬー。

なればそのために▲6八角で手の損得を調整するのはー、一見賢しくはあれますれど上策とは言えませぬー。

先手が端などで待ち方を調整すれば-、あるいは違う手順への合流を調整出来たやもしれませぬがー、事前の準備がなければ難しいでしょー。

ゆえに▲5八飛こそがー、永瀬六段が己の未来を見定めた一手と思いますー。

 

△7三角 ▲5五歩 △同 歩▲同 銀 △5二飛 ▲6五歩 △5一飛 ▲9八香

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 ▲6五歩~▲9八香は見慣れぬ手順でありまして-。
まず▲6五歩が普通ありませぬー。これな一手が、成立するのは宮田新手の場合に限ると言われておりましてー。

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もしや宮田新手や通常の▲4六銀3七桂の定跡を忘れてはおりませぬかー?
今は指されなくともー、定跡の底には積み重ねた歴史が流れておりー、疎かにしてはなりませぬー。

▲9八香は穴熊を目指しておりましてー。
「現代将棋は隙あらば穴熊」と、ばばさまの教えにもありますゆえー、いつでも穴熊は考えられるでしょー。
しかしー、此度は隙があるのでしょうかー?
▲6五歩と突っ張った直後であるゆえー、わたくしも驚きましてー。
羽生棋聖の対応を見てみましょー。


△4二銀▲5四歩 △同 金 ▲同 銀 △3七角成

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羽生棋聖が選んだのは▲5四歩に金をぶつけ、金桂交換して馬を作る手順でしてー。
馬を作って桂を取っても-、大事な守りの金を剥がされては困るように見えましてー、さらに先手の駒が前に出てきておりますゆえー、これで後手良しには思えぬでしょー。


▲6二金 △4七馬▲5一金 △5八馬 ▲6八金引 △3六馬▲5二飛 △3三銀引

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しかし実戦を進めて見ますればー、歩切れの先手は小技が利かず、重い攻めしかありませぬー。
羽生棋聖らしい大局観を久しぶりに見た気がしますればー、前局とは打って変わって永瀬六段が駒不足に悩まされておりますー。

▲6二金では▲2四角もあったやもしれませぬー。

 

【変化】▲2四角△同 歩 ▲6二銀 △3一飛 ▲5三銀上成 △3三銀▲4三金

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これは一見先手が迫っているように見えますけれどー。

△5五桂 ▲3二金 △同 飛 ▲6八金引 △4五角▲4三金 △3一金

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やはり攻めが重く、一押しが足りませぬー。
金駒を入れ替えるばかりでは埒が開かぬでしてー、小技で迫れる後手に分があるでしょー。

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さて局面を戻しましてー、△3三銀引では△3一飛も指摘されておりましてー、▲5三銀成△5一銀▲8二飛成△5二歩は後手良しでしてー、そうなればそのまま完封もあったでしょうー。
実戦は△3三銀引だったゆえにー、まだあやのある展開になったようでしてー。

 

▲5三銀成 △同 銀 ▲同飛成 △4二銀打 ▲5二龍△4九飛▲4一金 △1九飛成 ▲4二金 △同 金 ▲5一龍

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ここが先手に取って最後のちゃんすでありましてー、ここでは▲8二龍がまさったようでしてー。

【変化】▲8二龍 △5七歩▲4三銀 △3一金 ▲4二銀成 △同 銀 ▲4三銀 △4一香▲4二銀成 △同 香 ▲4三銀 △4一銀

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こうなれば銀香を打ち合っての千日手模様でしてー。
とはいえ必ず千日手とは言い切れませぬー。
後手も打開しようと思えばできますゆえー、感想戦ではなく実戦でこうなれば、また異なる道へ進んだかもしれませぬー

 

△3一香▲8一龍 △5七歩 ▲2五桂 △5八歩成 ▲3三桂成 △同 桂▲9九玉 △4五馬 ▲6七銀 △6八と ▲同 銀 △6六桂▲5六歩 △同 馬 ▲8八金 △6七馬 ▲同 銀 △7九龍▲7七銀 △4五角 ▲6八銀打 △8八龍 ▲同 銀 △7八銀まで96手で後手羽生棋聖の勝ち

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以下は後手が寄らない形となりまして-、はっきり羽生棋聖優勢にー。
あとは着実かつ高速で寄せきって勝ちとなりましたー。

第一局は永瀬六段の良いところが存分に出た将棋でしてー、本譜は羽生棋聖の異能な大局観と積極的な踏み込みにて優勢となりー、そのまま押し切った、これはいつも通りの羽生棋聖だったでしょー。

事務所の皆様方も羽生棋聖の連敗は心配しておりましてー、一局の勝敗は儚いものなればー、あまり深刻に一喜一憂いたしはしませぬがー、悪しき流れの中に居続けるのではと不安になったのでしょー。

本譜の指し回しは皆様のそんな不安を消しましてー、羽生棋聖もまた力を持つ者ゆえにー、将棋によって人の心に希望を灯すのでしょー。

今宵は敢闘の儀を執り行いまして-、以降は両対局者の健闘を祈りましょー。

【依田芳乃】